出来立ての二人分の朝ごはんは、起きてまだ何も口にしていない私には誘惑でしかない。
とはいえ、これは人に渡すものだ。私の仕事はこの朝ごはんを運ぶこと、そしてちゃんと食べてもらうことだ。

「おはようございま〜す、朝ごはん出来たよ〜!」

朝から騒々しい。二人しておんなじような顔をして、呆れるくらい似た者同士だ。おはようの一言くらいでも返してくれたら食事も渡しやすいのに。

「今日はなんと……パンです!」
「……!焦げてない」
「でしょ〜?フランソワ、えーと、プロのシェフが作ったの」

パンを見たほむらはちょっとだけ嬉しそうにしてくれた。こんなところに四六時中いたら食事くらいしか楽しみがない。でも二人を野放しにするわけにもいかず、せめて美味しいご飯くらいは食べてほしいというのが細やかな願いだ。

「氷月はお米の方が好きそう」
「あるんですか」
「残念ながら稲も田んぼもありません、まあ田んぼの遺構なら当たりつけて掘りゃあるかもなって千空先生が」
「……そんなこと聞いたんですか?」

それはもう。私だっておにぎりが食べたい。だから生ゴミを見るような目はやめて欲しい。

「あ、お昼は私が天ぷらチャレンジするから楽しみにしててね!」
「もう昼の話……」
「取り敢えず口に入れても大丈夫なものにしてください」





なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。揺りかごに揺られてるみたいな不思議な心地だ。まだ眠っていたい。でも、もう起きないといけないのは分かる。
なかなか開くことのできない目を擦っていると今度こそ乱暴に揺すられた。

「いつまでも惰眠を貪るつもりですか」
「うわっ」

恐ろしい声が聞こえた瞬間、嘘みたいに目が覚めた。逆光で顔はよく見えないが、聳え立つ壁みたいなその男は服装と佇まいのせいでお迎えに来た死神のように見えなくもない。

「お、おはようございま〜す」

相変わらず挨拶は返ってこない。もちろん、ちゃんと挨拶してくださいと言う勇気なんてものは微塵も持ち合わせていないけれど。

「……出来てますよ」
「なにが」
「まだ寝惚けてるんですか?朝食です」

思い出した。私たちは絶賛航海中で、起きてご飯を胃に流し込んだら交代の時間まで馬車馬のように働かなければならない。

「氷月が作ったの?」
「そんなわけないでしょう」

自分で言っておきながら料理する氷月なんて想像できないけど、案外職人気質で拘ると止まらない気もする。

「いつかは食べてみたいな。氷月の手作り」
「まぁ、君よりは上手くやりますよ」
「それは本当にごめんって、もう忘れてよー」

あの時持って来られた天ぷらはとても食べられたものではなかったと、まるで昨日のことみたいに文句を言われた。一生懸命作ったのに。でもやっぱり一人で頑張るなんて意地張らないでフランソワに全部教えてもらえば良かった。

「次作るときは薄力粉くらいちゃんと準備してください」

あ、試食はしてくれる感じなんだ。とは言わないでおこう。



2021.4.6 「朝ごはん、出来たよ」


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